が、今度戯曲座でやることになつたのは、僕としては一種の感慨があります。
 この作品のテーマとなつてゐる一番大きいものは、人間が自分の過去をふり返つて見るとき、自分が実際経験してゐながら、気づかず、そのまゝ通り過ぎてしまふことがたくさんあります。愛情の問題など特にさうです。あとで振り返つてみて、しまつた、あの時自分はあんなに貴重なものを与へられてゐながら、知らずに過ぎてしまつたと、あとになつてどうにもあきらめきれない悔い、なさけない、辛い、同時に味はひ深い、切ない悔い、さう云ふものがあります。僕の小さい時からの生活で、あの時、自分はこんなにも美しいものを、人からも、自然からも、貰つたのに気づかずに通り過ぎたと云ふことを考へて、非常に後悔することが多いので、その時の事を考へてみて、それを掘り起し乍ら書いたものです。
 ですから、戯曲座で演ぜられる場合にもさう云ふ風な点を生かし乍らやつてほしいと希望します。
「地熱」と云ふ題名は、僕が小さい時から久しくもつてゐたもので、忘れもしない中学四年の時、神経衰弱みたいになつて、世の中が何かつまらなくなり夜もよくねむれず、勉強するのも嫌になり、死んでし
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