ない。これは当地の中流以下の用うる語ばで字引にないような発音をするのみならず、前の言ばと後の言ばの句切りが分らない事ほどさように早く饒舌《しゃべ》るのである。我輩はコックネーでは毎度閉口するが、ベッヂパードンのコックネーに至っては閉口を通り過してもう一遍閉口するまで少々|草臥《くたびれ》るから開口一番ちょっと休まなければやり切れない位のものだ。我輩がここに下宿したてにはしばしばペンの襲撃を蒙って恐縮したのである。不得已《やむをえず》この旨を神さんに届け出ると可愛想にペンは大変御小言を頂戴した。御客様にそんな無仕付な方《ほう》があるものか以後はたしなむが善かろうと極めつけられた。それから従順なるペンは決して我輩に口をきかない。但し口をきかないのは妻君の内に居る時に限るので山の神が外へ出た時には依然として故《もと》のペンである。故のペンが無言の業《ぎょう》をさせられた口惜しまぎれに折を見て元利共取返そうという勢でくるからたまらない。一週間無理に断食をした先生が八日目に御櫃《おひつ》を抱えて奮戦するの慨[#「慨」に「(ママ)」の注記]がある。
例の如くデンマークヒルを散歩して帰ると我輩のた
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