た。
この「倫敦消息」は後年の『吾輩《わがはい》は猫《ねこ》である』をどことなく彷彿《ほうふつ》せしめるところのものがある。試みにその一節を載せて見る。
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朋友その朋友と共に我輩が生活を共にする所の朋友姉妹の事に就ては前回に少しく述ぶるところあったが、この外に我輩がもっとも敬服しもっとも辟易《へきえき》する所の朋友がまだ一人ある。姓はペン渾名《あだな》は bedge pardon なる聖人の事を少しく報道しないでは何だか気が済まないから、同君の事をちょっと御話して、次回からは方面の変った目撃談観察談を御紹介仕ろう。抑《そもそ》もこのペン即ち内の下女なるペンに何故《なにゆえ》我輩がこの渾名を呈したかというと彼は舌が短かすぎるのか長すぎるのか呂律《ろれつ》が少々廻り兼ねる善人なる故に I beg your pardon という代りに、いつでも bedge pardon というからである。ベッヂ、パードンは名の如く如可にもベッヂ、パードンである。然し非常な能弁家で、彼の舌の先から唾液《つば》を容赦なく我輩の顔面《かお》に吹きかけて話し立てる時などは滔々滾々《とうと
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