。今度の日曜に散歩をする約束をしました。『早稲田』から正月という注文が来ましたがこれは延ばす事に仕って『ホトトギス』へ何か書いて見ましょう。もっとも他にも約束もあるがどうかします。もっとも『ホトトギス』へ出来なければ外へも出来ないのですから御勘弁なさい。さようなら。
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   十月十六夜[#地から3字上げ]金
     虚子大人座下
      ○
明治三十九年十一月九日(封書)
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 昨日は御出かと思って居たら東洋城の注進で顔がはれたという訳で髪結床も油断のならないものと気がつきました。昨日は大分大勢来ました。しめて十三、四人です。東洋城と三重吉が大に論じていました。紅緑《こうろく》の「アンカ」を四方太がほめた。森田白楊は散々わるくいうた。あのジジイは僕も嫌だ。通篇西洋臭い。焼直し然としている。然し田舎の趣味がある所が面白いと思います。
 文章談はほんの一口でつまらんものです。正月には非[#「非」に白丸傍点]人情の反対即ち純[#「純」に白丸傍点]人情的のものがかきたいが出来るか、出来損うか、または出来上らないか分らない。文債が多くて方々から尻が来て閉口です。『坊ちゃん』は依然として広告されていますね。どうか正月分は(もし出来たら)この醜態を免がれたいと思う。僕今度は新体詩の妙な奴を作ろうと思う。文界は依然として芋を揉《も》んでいる。そのなかに混って奮闘するのは愉快ですね。皮がむけて肉がただれても愉快だ。僕もし文壇を退けば西都へ行って大学で済まして講義をしています。然し折角生れた甲斐には東京で花々しく打死をしたいですね。
 吉原の酉《とり》の市なんか僕も見たかった。二、三日漫然とあるきたい。手紙をかくだけでも随分骨が折れる。以上。
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   十一月九日[#地から3字上げ]金
     虚子先生
      ○
明治三十九年十一月十一日(封書)
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 拝啓 昨日ちょっと伺うのを忘れましたがね。小生の原稿は十二月二十日頃まででいいでしょうか。そこの所をちょっと確めて置きたい。実は色々用事があってね早くは出来そうもないです。
 生田長江《いくたちょうこう》という人が四方太さんの所へ行ったら先生大気焔で漱石も「一夜」をかいているうちはよかったが近頃段々堕落するといったそうだ。四方太先生はこん
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