より外に解釈しようがない。コンナ人間以上にも以下にもどうする事も出来ないのを、強いてどうかしようと思うのは当然天の責任を自分が脊負って苦労するようなものだと思います。この論法からいうと親と喧嘩をしても充分自己の義務を尽して居るのであります。天に背いても自分の義務を尽して居るのであります。況《いわ》んや隣り近所や東京市民や日本人民や乃至《ないし》世界全体の人の意思に背いても自分には立派に義理が立つ訳であります。これではちと気焔が高過ぎましたね。少々ひまになったから余計な事を書きます。
昔はコンな事を考えた時期があります。正しい人が汚名をきて罪に処せられるほど悲惨な事はあるまいと。今の考は全く別であります。どうかそんな人になって見たい。世界総体を相手にしてハリツケにでもなってハリツケの上から下を見てこの馬鹿野郎と心のうちで軽蔑して死んで見たい。もっとも僕は臆病だから、本当のハリツケは少々恐れ入る。絞罪位な所でいいなら進んで願いたい。
四方太先生いよいよ文章論をかき出しましたね。あれを何号もつづけたらよかろう。もっとも文章論と申すほどな筋の通ったものではない、全く文話という位なものですな。鳴雪老人のは例によって読みません。『漾虚集』を御批評下さってありがたい。ことに野菜づくしはありがたい。『中央公論』にね、「大魚に呑まれたる人」という小説がありますよ、伊藤銀月という人のかいたものです。随分妙な事をかきますね、然し中々新しい形容の言葉があって刺戟の強い文章です。序に読んで御覧なさい。
色々かきましたね。いくらでもかけばいくらでも書けるがまずよしましょう。
どうです一日どこかで清遊を仕ろうじゃありませんか。頓首。
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七月二日[#地から3字上げ]夏金生
虚子大人
○
明治三十九年七月十七日(葉書)
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拝啓「猫」の大尾をかきました。京都から帰ったらすぐ来て読んで下さい。明日は所労休みだから明日だと都合がいい。
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十七日[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
明治三十九年七月十九日(ハガキ)
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昨日は失敬。その節御話し致候『ホトトギス』の寄贈所は小石川区久堅町七十四番地五十二号菅虎雄方に候間宜敷様御取計願上候。以上。
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