出張して寒月《かんげつ》君と芸者をあげました。芸者がすきになるにはよほど修業が入る。能よりもむずかしい。今後の文章会はひまがあれば行く。もし草稿が出来んようなら御免を蒙る。以上頓首。(三八、一二、三)
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十二月三日[#地から3字上げ]金
虚子先生
○
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時間がないので已《やむ》を得ず今日学校をやすんで『帝文』の方をかきあげました。これは六十四枚ばかり。実はもっとかかんといけないが時が出ないからあとを省略しました。それで頭のかった変物が出来ました。明年御批評を願います。「猫」は明日から奮発してかくんですがこうなると苦しくなりますよ。だれか代作が頼みたい位だ。然し十七、八日までにはあげます。君と活版屋に口をあけさしては済まない。(三八、一二、一一)
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[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清様
○
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啓 先刻の人の話では御嬢さんが肺炎で病院へつめきりだそうですね。少しは宜《い》いですか。大事になさい。僕の家《うち》バカンボ誕生やはり女です。妻君発熱「猫」はかけないと思うたらすぐ下熱。まずまず大丈夫です。「猫」は一返君によんでもらう積りで電話をかけたのですが失望しました。はじめの方のかき方が少し気取ってる気味がありはせんかと思う。それから終末の所はもっと長く書くはずであったが、どうしても時間がないのであんな風になったんです。この二週間『帝文』と『ホトトギス』でひまさえあればかきつづけ、もう原稿紙を見るのもいやになりました。これでは小説などで飯を食う事は思も寄らない。君何か出来ましたか。病人などの心配があると文章などは出来たものじゃない。今日はがっかりして遊びたいが生憎《あいにく》誰もこない。行く所もない。まずまず正月に間に合うように注文通り百枚位書いて安心しましたよ。(三八、一二、一八)
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十八日[#地から3字上げ]金
虚子様
六
漱石氏が創作に筆を執りはじめるようになってから、氏と私との交渉も雑誌発行人と人気のある小説家との関係というようなものがだんだんと重きをなして来た。今までは漱石氏は英文学者として、私の尊敬する先輩として、また俳友として、利害関係の無い交際であったのであ
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