っていやしない。その弟子や子分の思い遣りのない我儘《わがまま》な仕打に腹を立てて一々それに愛想をつかしていた日には一人は愚か半人の弟子もその膝下《しっか》に引きつけておくことは出来ないのである。為《な》すある師匠、為すある親分はその点に於て執着――愛――を持っておる。たとい弟子や子分の方から逃れようとしても容易にそれを逃しはしない。母の愛が子を抱《いだ》きしめるようにその一種の執着力はじっと弟子や子分を抱きしめていて、たといもがき逃れようとしても容易にそれを手離しはしない。そういう点に於て子規居士は十二分の執着――愛――を持っていた。たとい門下生同士で互に他の悪口を言って、何故あんなものを膝下によせつけるのかという風にそれを排擠《はいせい》することがあるとしても、またそういう人間が自分から遠ざかろうとしても、居士は仮りにも自分の門下生となったものは一人も半人もこれを手離すに忍びなかったようである。これは居士の愛が深かったともいえる。居士の慾が突張っていたともいえる。いずれにしても見様《みよう》言様《いいよう》である。居士はかつて余らが自己の俳句をおろそかにするのを誡《いまし》めてこうい
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