が我らにバットとボールの借用を申込んだ。我らは本場仕込みのバッチングを拝見することを無上の光栄として早速それを手渡しすると我らからそれを受取ったその脹脛の露出した人は、それを他の一人の人の前に持って行った。その人の風采《ふうさい》は他の諸君と違って着物などあまりツンツルテンでなく、兵児帯《へこおび》を緩《ゆる》く巻帯にし、この暑い夏であるのにかかわらずなお手首をボタンでとめるようになっているシャツを着、平べったい俎板《まないた》のような下駄を穿《は》き、他の東京仕込みの人々に比べあまり田舎者の尊敬に値せぬような風采であったが、しかも自ら此の一団の中心人物である如く、初めはそのままで軽くバッチングを始めた。先のツンツルテンを初め他の諸君は皆数十間あとじさりをして争ってそのボールを受取るのであった。そのバッチングはなかなかたしかでその人も終には単衣《ひとえ》の肌を脱いでシャツ一枚になり、鋭いボールを飛ばすようになった。そのうち一度ボールはその人の手許《てもと》を外れて丁度《ちょうど》余の立っている前に転げて来たことがあった。余はそのボールを拾ってその人に投げた。その人は「失敬。」と軽く言っ
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