のみを残せば猶《なお》宜し。
 第三蕪村の句を入れるもよろしけれど一句|毎《ごと》に蕪村の名あるはうるさし。蕪村とはじめにあればそれにて十分也。(これは飄亭より注意)
 第四飄亭曰く、募集句は鳴雪子規代る代る(一月おき)見ることにしては如何と。愚考にては前にも申上候通り募集句を二分して違う部分を見ても宜しと存候。飄亭説にてもまたたまたまには一処に同じものを評するも面白しと存候。これはしかし売行にも関することと存候|故《ゆえ》貴兄も御考可被成また広く一般趨向をも御聞可被下《おききくださるべく》候。
 またある時は草稿を三分四分して碧虚なども一部分を見るもよろしからん。
 第五募集題鶯、春風とはわるし。春風は昨年も『海南新聞』にて募集したるもの故よろしからず。同じ題が出ては前の募集句を見ておかねば剽窃《ひょうせつ》の煩いあり、また同じ題ばかりでは投書家の詩想広くならぬ憂あり。
 また壱号の題に千鳥、時雨という動物天文ありて今度もまた鳥類と天文とはよほど素人くさき題の出し方也。貴兄にも似合ぬと存候。小生の我儘《わがまま》を申さば一応小生に御打合せ被下まじくや。
  ○以上欠点
 此度《こんど》は題も二つにしてよほど材料を少くする御覚悟と見つれども、それならば祝詞の代りになるべき文章か俳句かをしっかり集める用意なかるべからず。碧、虚、飄亭はじめそれぞれ貴兄よりきびしく御請求あるべく候。鳴雪翁と僕とは黙っていても送る。
 また募集句も今度は一号の半分もあるまじと存候。それは題が少きと題がわるきとに基因いたし候。その覚悟にて他の材料御あつめ可被成候。
 鳴雪翁曰く校正行届きたること感心也。
 先月鳴雪翁小家に来られ曰く、『ほととぎす』今日壱部来れり。猶諸方へ得意をつけんと思う故二部三部でもほしければ取りに来りたりと。小生方にも一部より参らずと申候えば、御失望の様子なりき。万一飄亭方へでもと存じ聞合候処同人へも一部しか来らずと。さては貴兄もぬかり給えり。とにかく初号也。残りあらば何部にてもよこしたまえ。鳴雪翁は少くも五、六部はほしといわれたり。(これは久松《ひさまつ》家及び諸俳人に贈るため)とにかく『ほととぎす』発行に就きては鳴雪翁一番大得意也。翁は一号を見てうれしくてたまらねば即日小家へも来られたるわけ也。
 正直に申せば小生鳴雪翁ほどには得意ならず。一号を見た時はじめはうれしく後には多少不平なりき。しかし出来るだけは完美にしたいとは思う也。御勉強可被下候。壱円位の損耗ならば小生より差出してもよろしく候。
 鳴雪翁のうれしさはあたかも情郎の情婦におけるが如く、親の子におけるが如くにて体裁も不体裁もなくただむやみやたらに嬉しき也。『ほととぎす』は翁の好意に向って感謝する処なかるべからず。
 鳴雪翁は二号に「粛山公《しゅくざんこう》の句《く》」を送らるる由小生は「反古籠」を永く書くべし。
 右大略批評まで如此候。以上。
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    一月二十一日[#地から3字上げ]子規
      正之君
  一号残り御贈り被下度鳴雪翁宛にてもよろし。

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   当地昨今厳寒
手|凍《こゞ》えてしば/\筆の落んとす
[#ここで字下げ終わり]

『ホトトギス』が松山で出ている間は余はあまり熱心なる投書家ではなかった。子規居士のみは「俳諧反古籠」を連載し募集句を選むこと等を怠らずやっていたが、鳴雪翁も何か家事上の都合で一時俳壇を退れた事などがあってどうも思う通りに原稿が集らなかったようであった。その上いつも経費が不足し意外に手数のかかる事が多いので極堂君はその続刊困難の事を時々《じじ》居士に洩らして来た。次の手紙は『子規書簡集』に載っているものであるが、前掲の手紙に対照して見ることの上に興味が多いので更にここに載せる事にする。

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 拝啓おしつまり何かと御多忙と奉存《ぞんじたてまつり》候。
『ほととぎす』の事委細|御申越《おもうしこし》承知致候。編輯を他人に任すとのことはもとより小生の容喙《ようかい》すべきことにてもなく誰がやっても出来さえすれば宜しく候。ただ恐る三|鼠《そ》は粗漏にして任に堪えざるを。盲天《もうてん》寧ろ可ならんも盲目よく為し得べきや否や。
 御申越によれば売先は予州にあらずして他国に在る由。これ最も可賀の事とうれしく存候。即ち予州は極めて僻在《へきざい》の地ながら俳句界の牛耳を取る証拠にしてこの事を聞く已来《いらい》猶更小生は『ほととぎす』を永続為致度念|熾《さかん》に起り申候。
 編輯上最も面倒なるは募集句清書ならんと存候。せめてはこれだけにても御手を助けんと存、この度は小生清書致し俳巻に添置候。今後も出来さえすれば清書可致候。
 しかしこの事は小生の奮発より成るものにて他人を
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