黒行、中渋谷行、新宿行、水天宮行の円太郎に乗る人もある。そしてその多くは丸ビルにはいる人のように見える。
丸ビルには一階に百室、八階で八百室、その一室に平均十人と見て一万人近くの人が毎日出はいりするわけある[#「わけある」はママ]。それに食堂、売店に出はいりする客を数えたら大変な人になる。
その丸ビルに吸い込まれる人を横切って自動車が駆ける。その自動車は何《いず》れも理不尽に駆ける。路行く人を屁《へ》の河童《かっぱ》と駆ける。だから丸ビルをそこに見ておって、その門口に突進するまでが大変である。命から/″\である。
今の三菱村がまだ原であった時分、その原の一隅に今の東京駅が出来た。その頃の東京駅はだだ広くって、旅客があちらに一人こちらに一人、駅員も尋ね廻らねば見当たらぬという状態であった。
『こんな広い不便なものを拵《こさ》えてどうする積りであろう。』などという呟《つぶや》きをきいたものだ。それが今はどうであろう。急行の出る前などは旅客が一杯で身動きがならぬ有様である。
『折角作るなら、もうすこし広いものを作って置けばいいに。』
そんなつぶやきが聞こえるようになった。
そこで乗
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