。日本橋、京橋、神田というような目抜きの場所は悉《ことごと》く焼尽してしまって、わが丸の内だけが無事であったのだもの。それに丸ビルに新しく出来た商店街だけが無事であったのだもの。大東京の客は皆この丸ビルに集まった。一時は食堂、呉服店のみならず、丸ビルの十字路に設けられているあらゆる店は、悉く繁昌した。東京繁昌の中心は丸ビルにあるかの観を呈した。
その後三越、松屋等が復興してから、又日本橋銀座等の繁昌はもとの通りとなった。しかしながら東京停車場を前に控えた大玄関の丸の内一帯は震災前とは一大変化を来して、新繁昌の中心地となろうとしている。
東京駅
丸ビルと行幸《みゆき》道路を隔てて近く姉妹館が建つそうである。それはホテルにするという事である。斯《か》くて大玄関の左右の翼が完備することになる。
大玄関に対して東京市の正門は東京駅である。
朝鎌倉からの私を乗せた汽車が東京駅に著《つ》いた時には黒山のような人が一時に改札口に殺到する。(乗車口降車口共に)尤《もっと》もそれは汽車の客ばかりではない。同時に著いた電車の客も交って。
それ等の客の中に一人小さい男の子が交っている。
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