げる所をものでぶつのであった。よく見ると別々の鼠とりに五、六匹の鼠がはいっていた。
 鼠や蠅は別に詩的材料というのではない。併し蠅は俳句の季題ではある。
 唯《ただ》或時私は見るともなく窓外に目をやると、珍しくも一匹の黄蝶がひら/\と中庭を飛んでいるのが目に入った。これは珍しいと窓の所に近よって見ると、蝶はひら/\とその小さな羽を動かして、地下室のところまで降りるのであるが、何所にも出場が無いのを見ると、またひら/\と上の方に上って来る。そうして七、八階の辺の高さまで上るのであるが、もうそれより上に上ることはよして、又ひら/\と舞い下りて来る。或時は向う側の窓近く飛んでいるし或時はこちら側の窓近く飛んでいる。
 私は暫くその蝶を見ておったが、ふと中窓をめぐる各の窓に目を移すと、あちらの窓にもまたこちらの窓にもこの蝶を見ている人の顔があった。
 蝶は舞台にある舞姫のように、ただ独《ひと》りこの庭を独占して上下している。その実《じつ》通路を見出そうとしてあせっているのであろうが、われ等の眼には少しもあせっている容子は見えず、翩翻《へんぽん》として広い中庭に乱舞しているように見える。城壁のよ
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