、息子が山荘庵の地主から使《つかい》が来て、呼び出されて行ったが、二時間ばかりすると打悄《うちしお》れて帰って来た。
「とっさん、おめえ大変なこと仕出かしたなァ」
 息子は枕許《まくらもと》で、嘆息と一緒に云った。


   六

 善ニョムさんが擲《なぐ》りつけた断髪娘は、地主の二番目娘で、二三日前東京から帰っているのだった。それが飼犬《かいいぬ》と一緒に散歩に出たのを、とっさんに腰がたたないほど、天秤棒で擲られたのだというのだ。
 しかし、善ニョムさんはケロリとしていた。
「だけんど、おめえあの娘ッ子が……」
「だけんどじゃねえや、とっさん」
 息子は、負けずぎらいな親爺《おやじ》をたしなめるように怒鳴った。
「相手が地主の一人娘じゃねえか」
 息子は、分別深く話した。
「地主はスッカリ怒《おこ》っていて、小作の田畑を全部とりあげると云うんだ。俺ァはァ、一生懸命詫びたがどうしてもきかねえ、それであの支配人の黒田さんに泣きついて、一緒に詫びて貰っただ」
 傍《そば》で、オロオロしている嫁が云った。
「で、もとどおりになったかいな」
「ウウン、そうはいかねえ、謝りのしるしに榛の木畑をあ
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