断髪の娘は、不意に、天秤棒でお臀《しり》を殴られると、もろくそこへ、ヘタってしまった。
「いたいッ」
 娘は、金切声で叫びながら、断髪頭を振り向けて、善ニョムさんを睨《にら》んだ。
「ど、どうしてくれる、この麦を!」
 善ニョムさんは、その断髪娘が、誰であるかを見極めるほどの思慮を失っていた。「――さぁこん畜生、立たねえか、そらおめえの臀《しり》の下で、麦が泣いてるでねえか、こん畜生、モ一つ擲《なぐ》るぞ」
 善ニョムさんは、また天秤棒を振りあげたが、図々しく、断髪娘はお臀《しり》をなぐられて、まだヘタリ込んだままであった。
「いたい、いたいッ」
 十六七の断髪娘は、立派な洋服を、惜し気なく、泥まみれにしながら、泣き喚《わめ》いた。
「誰か来てよう――、この百姓をつかまえてちょうだいよう――」
 善ニョムさんも、ブルブルにふるえているほど怒《いか》っていた。いきなり、娘の服の襟《えり》を掴むとズルズル引き摺《ず》って、畑のくろ[#「くろ」に傍点]のところへ投《ほう》り出してしまった。

 その夕方、善ニョムさんは、息子達夫婦よりも、さきに帰って何喰わぬ顔して寝ていた。
 夜になって
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