うわぎ》を、そばの朝顔のからんだ垣にひっかけて、靴ばきのままだが、この家の主人である深水は、あたらしいゆあがりをきて、あぐらをかいている。
「その顔つきじゃ、あかんな」
 チャップリンひげをうごかして長野がわらった。長野は大阪からながれてきた男で、専売局工場の電機修繕工をしている。三吉たちの熊本印刷工組合とはべつに、一専売局を中心に友愛会支部をつくっていて、弁舌がたっしゃなのと、煙草色《たばこいろ》の制服のなかで、機械工だけが許されている菜《な》ッ葉《ぱ》色制服のちがいで、女工たちのあいだに人気があった。三吉は縁のはしに腰かけ、手拭《てぬぐい》で顔をふいたが、二人のわらいごえにつれられて、まげに赤い手絡《てがら》をかけた深水の嫁さんが、うちわをそッと三吉のまえにだすと、同時にからだをひきながら、ころころとわらいころげた。
「ずいぶん、ごねっしんね」
 低声で嫁さんがいうと、
「え」
 と三吉が、真顔でこたえ、嫁さんがまたふきだすと、三吉も一緒にわらった。
 嫁にきて間がない深水の細君は、眼も、口も、鼻も、そろって小さく、まるい顔して、ころころにふとっていた。何畳だか、一間きりの家の中は
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