とした背。大きすぎる口、うすい眉毛さえが、特徴あるニュアンスになって、三吉の頭に影像をつくっている。そして彼女たちの姿が青く田甫のむこうにみえなくなったとき、しろくかわきあがった土堤道だけが足もとにのこったが、それはきのうもおとといも同じであった――。
尻からげして、三吉は、こんどは土堤道をあと戻りし、やがて場末の町にはいってきた。足首を白いほこりに染めながら、小家ばかりの裏町の路地《ろじ》を、まちがえずに入ってくる。なにかどなりながら竹|箒《ぼうき》をかついで子供をおっかけてきた腰巻一つの内儀《かみ》さんや、ふんどしひとつのすねをたたきながら、ひさし下のしおたれた朝顔のつるをなおしているおやじさんや、さわがしい夕飯まえの路地うちをいくつもまがってから、長屋のはしっこの家のかど口に「日本友愛会熊本支部事務所」とかいた、あたりには不似合な、大きな看板のあるところへでた。
「おう、青井」
むこうから、三吉をよぶ声がして、つづけてわらい声がいった。
「どうだったい、きょうは?」
路地にひらいた三尺縁で、長野と深水が焼酎をのんでいた。長野は、赤い組長マークのついた菜葉《なっぱ》服の上被《
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