ている。たかい鼻と、やや大きな口とが、すこしらくにみられた。三吉はわざとマッチを借りたりして妨害するが、深水の演説口調はなかなかやまない。そのうち、こんどは急に声の調子まで変えていった。
「――しかし、つまるところはですナ、ご両人でよろしくやってもらうよりないんだよ。わしはその、月下氷人でネ、これからさきは知らんですよ――」
それで深水が笑うと、彼女も一緒にわらった。深水は最初に彼らしい勿体《もったい》ぶりと、こっちが侮辱されるような、意味ありげな会釈《えしゃく》をのこして、小径のむこうに去っていったが、三吉は何故《なぜ》だかすこし落ちついていた。二人きりになってしまったのに、さっきまでの、何ときりだすかという焦慮と不安は、だいぶうすらいでしまっていた。
「あのゥ――」
彼女の方からいいだした。
「妾《あたし》、あなたのこと、まえから知っていました。あなたの御活躍なさってるご容子《ようす》――」
三吉は呆気《あっけ》にとられて、あいての大きすぎる口もとをみた。
「――いつか、新聞に“現代青年の任務”というのをお書きになったんでしょ。妾《あたし》、とても、感激しましたわ」
東京弁
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