]で竹の皮をむき、ふしの外のでっぱりをけずり、内側のかたい厚みをけずり、それから穴をあけて、柄《え》をつけると、ぶかっこうながら丈夫な、南九州の農家などでよくつかっている竹びしゃくが出来あがる。朝めし前からかかって、日に四十本をつくるのだが、このはずかしさは、馴れることができない。印刷工場で、団体見学の女学生などにみられるときもはずかしかったが、竹細工はもっとはずかしかった。何せみられる方が一人ぽっちであった。いい若いもんが手内職みたいな仕事をしているということもあった。しかし、それがどうして悪いのだろう? 何でこんなにはずかしいのだろう? そしてやっぱり、若い女が前の道を通ると、三吉はいち早く気がついて、家のなかにとびこんだ。
「でもまァ、これでお前がひしゃくをつくれば、日に二円にはなる。たきぎはでけるし、つきあいはいらんし、工場の二円よりかよっぽどつよい」
 倅《せがれ》が何で家の中にとびこむか、わざと知らんふりして、母親はいうのである。二円の利益は母親やきょうだいたちの手伝いもふくめてであるが、母親はなんでも倅の家出をおそれていた。
「そりゃな、東京の金はとれやすいかも知らんが、
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