ふのはそのままのみこめるが「活字も外國からきたのだらう」では濟まないものがあるやうに思へた。たとへば電車も自動車も蒸汽船も外國から來た。それは舶來のままで、日本の道路を走り、日本の海を走つたが、しかし活字はさういふわけにゆかぬ。字體もちがふ。文字の數もちがふ。外國の書物と日本の書物を比べても、製版の形式もちがふのがわかる。つまり電車は外國で作つたものでも、日本のレールを走ることが出來るが、活字はすこしちがふのだ。
 誰が、日本の活字を創つたらう? どういふ風にして創つたのだらう? 私は會場を出て寛永寺の坂を廣小路の方へくだりながら、そんなことを考へた。プレスやロールはオランダからでも眞ツすぐにこられる。しかし活字は、外國からきたにしても、きつと日本的な道行があるにちがひない。誰が日本の活字を、どういふ風にして創つたか? それがわかれば「伴大納言繪詞」から「八犬傳稿本」から近代小説まで、つまり日本印刷術の傳統が眞ツすぐにつながらうといふものだ。

      二

 私はときをり上野の帝國圖書館や、九段下の大橋圖書館に通つて、印刷に關する文獻を讀み漁つた。そして印刷に關する書物では、大橋
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