圖書館にくらべると、やはり上野の圖書館の方がはるかに豐富であつた。
私はそこで「世界印刷年表」とか、「印刷局五十年史」とか、「南蠻廣記」とか、「印刷文明史」とか、「世界印刷通史」とか、「現代印刷術」とか、「古活字版之研究」とかいつた書物を讀んだ。そのほか明治末期から大正へかけて、印刷文化の大衆化につれて印刷屋を開業しようとする人のための手引きといつた、ごく通俗な書物にもぶつかつたが、名前をおぼえてゐるやうな本はたいてい立派なものだつた。なかでも「古活字版之研究」や「印刷文明史」や「世界印刷通史」などは、量的に厖大なばかりでなく、世間からはあまり顧みられない特殊な研究の一テーマのために、自分の生涯を捧げつくしても尚足れりとしないやうなきびしさがあつて、私は壓倒される氣持がした。
しかし私のやうな入口も出口もわからない初心者のつねで、それらの書物を忠實に讀んだわけでもコナしたわけでもない。その著者に對しては申譯ないやうな氣儘な讀み方もする。目次をひろげて面白さうなのを飛び讀みしたり、それかと思ふと熱心に書き拔きしたり。ある書物では、四千年前バビロニア國のバビロニア人が、粘土の上に文字を
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