ルマ型プレスのそばに、しばらくはたつてゐた。そして頭の中では、一方では「伴大納言繪詞」から「八犬傳稿本」までまつすぐにきて、また片方では高速度輪轉機や動力式ロールやダルマ型プレスといふ順に、明治のむかふまで遡ることが出來ながら、たちまちにしてオランダといふとんでもないところへ逸れていつてしまふのだつた。
眼をうつすと、片方の壁には、等身大の文撰工たちが、てんでに文撰箱や原稿を握つて、活字ケースにむかひあひながら作業してゐる、製版工場の大きな寫眞が貼つてあつた。寫眞の中の文撰工たちは霜降り小倉の制服を着て、靴を穿いて、朝日のマークのはいつた作業帽をかぶつてゐる。私たちが唐棧の素袷に平ぐけの帶をしめて、豆しぼりの手拭など頸にまいて作業してゐたのに比べると、ずゐぶんちがふ。しかしケースの配置も、作業順序も、つまり中身は昔のままだつた。しひていふならば、活字のポイント制がもつと嚴密になり、紙型を澤山とるやうになつたために、地金の硬度が強化されてゐるくらゐのことであらう。
そしてここでも、木版と鉛活字との間の距りがつよくでてくるのだつた。それにダルマ型ハンドプレスがオランダから渡つてきたとい
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