千二百八十六號別刷の薄つぺらな古雜誌である。そのどつちにも陸軍軍醫中將秋山練造といふ人が書いてゐるが、別刷の方には「安政五年父の飜刻せる蘭書「濟生三方附醫戒」について」と題してある。
 練造氏の文によれば秋山氏は代々八王子に住んで、「濟生三方附醫戒」を出版した先代方齋は「幼名佐藏と云ひ、祖父の死後家と名を襲ぎて、義方と稱し、醫にして士であつ」た。安政五年の出版で、蘭書フーフエランドの寫本を原稿として鉛活字で印刷したといふ意味が述べてあり、練造氏の幼時の記憶によれば「又活字も診察室の戸棚に澤山あつたものでした。それが皆我家全燒の時失はれて――活字の鑄型が二個殘つて記念となつてゐるのみです」。また別のところでは「印刷に用ひた活字は少くとも五種を見ることが出來る。即ち大文字大中二種と、同じ大文字ながら少しく右に傾むいたもの、並びに小文字及イタリア風小文字である」。
 寫眞でみる同書の製本は粗末で不細工ではあるが、ハイカラな英語のリイダアでもみるやうな洋裝であつた。鑄型が殘つてゐるといひ、「之を緒方博士所藏の蘭本原文と比するに文章は勿論同じだが、第一には、活字の大きさが違ふ爲各行が必ずしも同じ
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