朝日新聞が創刊當時使用したといふ由緒書のある、古風な美濃判型ハンドプレスとか、半紙型ハンドフートなどの實物が陳列してあつて、次には寫眞で菊八頁の足踏式ロールとか、動力式四六全判のロールなどが年代順に示してある。それからは一擧にマリノン式輪轉機とか、高速度朝日式輪轉機とか、めくらむばかりの急速な印刷機の成長が觀衆をおどろかせてゐた。殊に實驗中の寫眞電送機のまはりはいつぱいの人だかりで、室ぢゆうの人氣をさらつてゐた。
しかし「印刷文化の歴史」とは云つても、この室はつまり明治以降の印刷術であつた。室のうちをボンヤリ見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しながら、私の頭では「八犬傳稿本」のばれん[#「ばれん」に傍点]刷り印刷術からここに至る、その中間がどつかで途切れてゐる。ハンドプレスや足踏ロールに電動機が加はつたことも、たしかに一つの革命的發展であるが、しかしばれん[#「ばれん」に傍点]刷りからハンドプレスに、即ち機械力に變つたといふことは、もつと、もつと大變なことに違ひないが、その道行きが私には解せないのであつた。
そのうち私は、フト足もとに思ひもかけずなつかしいものをめつけてび
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