油を製する法」「ガルフアニ鍍金の法」といふやうなことばかりで、他には何もなかつた。「上」の方には「緒言」と題して、「予嚮に祕事新書と題する一小册を著はす、專ら居家日用の事に關し、頗る兒戲に似たりと雖も又聊か益なしとすべからず、猶次篇を乞はるること切なり、されば事の多きを以て默止せしを、ちかごろ予が製する所の活字稍その功なるを以て、このたび倉卒筆を採り編を繼ぎ、更に新塾餘談と題し、毎月一二度活字を以て摺り、塾生の閑散に備ふ、これその餘談と題する所以なり、素より文字を以て論ずるものに非ず、見る人その鄙俚を笑ふこと勿れ」と述べ、彼の別號で――笑三識――とあつた。
「祕事新書」は文久二年の著述であるが、これの内容も「透寫紙の製法」とか「硝子《ビイドロ》鏡の製法」とか「水の善惡を測る法」とか「石鹸の製法」「流行眼を治する法」とかいふ類のものばかりで、私がさがしてゐる彼の風貌がうかがへるやうな、意見や主張を書いたものではさらになかつた。
「昌造の意見を述べたやうな著書はないでせうかネ。」
私はK・H氏に訊いた。本木の著書は多い方ではない。しかも私の見た五册をのぞけば他は題をみてもわかるやうに、數
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