交通事情と多忙だつた大鳥の生涯からして仕方ないとしても、この磊落な政治家らしい口吻のかげには、どつか學者として或は發明家として眞摯なものが足りない氣がするのだつた。
數日後、私は牛込にK・H氏を訪ねた。K・H氏は×××印刷會社の重役で、もう殆んど白髮の脊のたかい人だつたが、めづらしい印刷文獻をたくさん蒐めてゐて、親切に奧の室から一束づつ抱へてきては見せてくれた。なかには村垣淡路守(?)一行が歐洲行をしたとき、オランダから贈られた疊半分もあるやうな「鳥類圖譜」の大きい革表紙石版刷りの本があつたりした。初版「本草綱目圖譜」の見事な木版印刷に見惚れたりして、殆んど一日を過してしまつたが、K・H氏は昌造の「新塾餘談」第一篇上下、及び「祕事新書」一卷をも蒐めてゐた。主人に失禮ではあつたが、私は一ととほり讀ませてもらつた。そしてここでも私は失望してしまつたのである。
「新塾餘談」第一篇二册には、たとへば「燈火の強弱を試みる法」と題して、「この法は例へば石炭油の火光は蝋燭幾本の火光に等しきやを知らむためなり」といつた風に説いてある。その他「醤油を精製する法」「雷除けの法」「亞鉛を鍍金する法」「假漆
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