も同じ氣持であつた。
しかしその翌日、同じ時刻に病院へ二人でゆくと、三谷氏の容態は昨日とまるでちがつてゐた。ベツドの上にかがまつてゐる醫師や看護婦のただならぬ後ろ姿が見え、細君も幾度か二人の姿を眼にいれながら、よくは視覺にうつらぬといつた風の容子であつた。
しばらく廊下にたちつくしてゐる間にも、看護婦などの出入りがあわただしい。二人でけふは歸つた方がいいかも知れぬなどと話しあつたが、そのうち細君の顏がフイに入口からのぞいて手招きするのだつた。それはすこし怒つたやうな顏色で、私がそばへ寄ると、手に持つてゐる新聞包みをおしつけてから、短い聲で、
「ちよツと顏をみせてやつてください、ちよツと――」
と、叫ぶやうに云つて、くるツとむかふむきになつて、袂で顏をかくしてしまつた。
醫者はまだそこにゐた。衝立のそばまでゆくと、肉親の人らしい女の背中が少しどいて、そこから白いガーゼで胸から蔽つた三谷氏が見え、顏だけがあふのきにこつちを迎へてゐた。一と晩のうちにすつかり形相が變つてゐたが、くせのある唇許には、わりあひ元氣な微笑がただよつてゐる。
「や、ありがたう――」
例の右掌がガーゼの間から
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