つた。――それは均齊のとれた丈の高い男で、上體を眞直ぐに起してゐた。艦内に入れないのできまりわるく思つてゐたか、それとも日本官吏たるの名譽以外に自ら恃むところがあつて、環境を理解してゐたのか、それは私に判らない。だがその男は見事な、さりげないポーズで、誇らかに甲板に立つてゐた。――その顏の表情にも、――あの愚鈍な自己滿足も、喜劇的な勿體ぶりも、底の知れた幼稚な陽氣さもなかつた。いや却つて、日本人たるの意識が、その足らざるところ、その求むるところの自覺が、雙眼にほの見えてゐるやうに思はれるのであつた。――」
私はこれを井上滿氏の譯から引いてゐるのであるが、このへんゴンチヤロフの敍述はきびしくまた微妙をつくしてゐる。沖にゐるロシヤ使節の船を訪れる御檢視といふのは長崎奉行の與力以下で、その從者といふからには至つて身分のかるい武士だつたにちがひないが、それが何者であつたかは、日本側の記録でも知るすべがない。とにかくこんな新らしいタイプの日本人が、たくさん名も無い人間のうちにゐたにちがひなく、私らはちやうどこの頃、ロシヤ船に乘りこんで宇内の知識をきはめんとて、若い吉田寅次郎が江戸から長崎へむか
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