らともなく榮之助と吉兵衞が蛇のやうにするすると、全權の足下に兩方から這ひ寄つてきた。――」とゴンチヤロフはびつくりして書いてゐる。
 しかしそんな封建政治の古い慣習のうちにも新らしい萠芽はあつたわけで、そのとき會見の第一日に、筒井肥前守のした挨拶はまことに堂々としてゐて、ロシヤ人をおどろかしてゐるが、これはのち萬延、文久頃からしばしば外國を訪れた日本使節のそれにも魁けて立派なものだつたにちがひない。「――老人が口を切つた。私達はじつとその目をみつめた。老人ははじめから私達を魅惑してしまつたのだ。――眼のふちや口のまはりは光線のやうな皺にかこまれ、眼にも聲にもあらゆる點に老人らしい、物の分つた、愛想のよい好々爺ぶりが輝いてゐた。實際生活の苦勞の賜物だ。この老人をみたら誰でも自分のお祖父さんにしたくなるだらう。この老人の態度には立派な教養を窺はせるものがあつた。――」と、流石に作家ゴンチヤロフは、一と眼で筒井肥前守を描寫してしまつた。
 ――「手前共は數百里の彼方から參りました。」と老全權は始終微笑をうかべて、懷しげに私達を見やつて云つた。「貴殿方は幾千里を越えておいでになつた。これまで一
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