東京の圖書館食堂で一等貧弱だと思へた。貧弱はかまはぬが、場末の安食堂のやうな亂暴さに加へて、をかしな官僚ぶりをもつてゐた。時節柄コーヒーもうどんもなかつたり、あるときはお菜だけあつて飯がなかつたりするのは仕方ないことであるが、
「お菜だけですよ、いいですかア。」
カウンターにゐる女給は拳の腹で出納器の釦を叩きながら怒つた聲でいふのであつた。しかし私の關心はそれよりも食堂に入つてくる人々の容子が、町の食堂なぞでみるそれとずゐぶん異つてゐることである。學生だらうと紳士だらうとに拘らず、カウンターの突慳貪な聲にも、まるで叱られてゐるみたいに靜かにしてゐることだつた。
あるとき割箸の屑で燃してゐるストーヴの傍で、私たちは三十分すると出來るといふ飯を待つてゐたが、三十分經つても却々飯は出來ない。私はしだいに苛々してきたが、やがて佛頂面してゐるのは自分一人だと氣がついてきた。汚れたテーブルの前に坐つてゐる學生も、さむいたたき[#「たたき」に傍点]の隅で凍える靴の爪先をコツコツやつてゐる紳士も、みんな默念としてゐる。同じテーブルに坐つてゐる二重※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しを着た男
前へ
次へ
全311ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳永 直 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング