せんとした。しかし薩藩吏の應戰によつて彼らは目的を達せず、一つの遺棄死體をのこして退散した。――
 つまり彼ら漂着船の目的は、自から單純であつた。彼らは、食糧薪水の補給さへすればよかつたし、それ以上にはせいぜい自國の雜貨を與へて、代りにめづらしい日本品を土産にでも出來ればよかつたのであらう。毛色眼色は異つても、言葉は通じなくても、政治的意圖をもたぬ人間同志はつねに親しみやすいものである。しかも記録にものこらない、北は蝦夷から南は琉球までの日本海岸で、そんな事柄は澤山あつたらうと想像することは困難でないから、この時代にこれらの船々が、鎖された國の人々に與へた影響は、けつして小さくなかつたにちがひない。
 そんな意味からもつづいて起つた天保八年(一八三七年)の「モリソン號事件」などは重要であつた。有名なこの事件はアメリカ、オリフアント會社重役チヤールズ・キングを主とし、日本語學者で宣教師ギユツラフ、博物學者ウエルズ・ウイリヤムズ、醫師で天文學者ピーター・パーカーらの一行であつた。「モリソン號」の眞の目的が何であつたか、直接には日本漂民で尾張の船乘岩吉、久吉、音吉、同じく肥後の庄藏、壽三郎ら
前へ 次へ
全311ページ中139ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳永 直 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング