涯にも、おどろくべき歴史があつた。私の頭では蒸汽船以前にはまるで空白のやうであつた太平洋にも、アラスカから支那の澳門まで、直線に乘つきつてゆく帆かけ船の歴史があつた。日本海のむかふ、海と陸との區別だけしかハツキリしてゐないやうな沿海州から、シベリヤの茫漠とした地圖のうちには、ジンギスカンの後裔モンゴリヤ人と慓悍無比なロシヤコサツクとの、まるでお伽噺にきくやうな永い歴史をかけたたたかひがあつた。そして鐵砲といふ新武器をもつてジンギスカンの後裔たちを征服したスラヴ族は、地球の北端まで東漸し、やがて千島列島に沿うて南下しつつあつたのである。また南方薩摩、琉球のむかふには、ジヤワ、スマトラに根城をおくオランダ艦隊と、印度、マライに足場をもつイギリス艦隊とが、南太平洋や東支那海で覇をあらそひながら、東上しつつ、オランダ艦隊が臺灣を掠めとれば、イギリス艦隊は琉球に上陸した――。
 江戸時代が三百年の鎖國にゐるうち、海の日本の四周は、刻々にヒタしてくる「戰爭」と「文化」の波であつた。そして活字は昌造らがそれを拾ひあげるまで、四世紀にわたつて長崎の海邊に漂つてゐたわけである。

      二

 嘉
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