ところでふれたって売れる道理はないのだから、やっぱりみんなの見ているところで怒鳴れるように修業しなければならない。
それからだんだん、ふれ声も平気で言えるようになり、天秤棒の重みで一度は赤く皮のむけた肩も、いつかタコみたいになって痛くなくなり、いつもこんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]を買ってくれる家の奥さんや女中さんとも顔馴染《かおなじみ》になったりしていったが、たった一つだけが、いつまで経《た》っても、恥ずかしく辛《つら》かった。
それは往来で、同級生にぶっつかることだった。天秤棒をキシませながら、ふれ声をあげて、フト屋敷の角をまがると、私と同じ学帽をかぶった同級生たちが四五人、生垣《いけがき》のそばで、独楽《こま》などをまわして遊んでいるのがめっかる。するともう、私の足はすくんでしまって、いそいで逃げだそうと思うが、それより早く、
「あッ、徳永だ――」
と、だれかが叫ぶ。するとまた、
「ホントだ、あいつこんにゃく[#「こんにゃく」に傍点]屋なんだネ」
と、違った声がいう。私は勇気がくじけて、みんなまできいてることが出来ない。こんにゃくを売ることも忘れて、ドンドンいまきた道
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