ンス古典劇で尊重された「三統一」をイプセンが最もよく遵奉した作品で、その意味でもわれわれの研究の対象たり得る、沙翁劇や今日|流行《はや》る表現派の芝居のように、逐事件的に劇的行為《ハンドルング》をたどってゆかずに、例の「第五幕から始まる」という評語もあるような、劇的事件の一つの高頂点から芝居を明けて、それ以前のことを前筋――フォールゲシヒテ――として事件の進行につれて展開させながら、キャタストロフに導くという手法の代表的な例として「幽霊」を挙げることができる、また、単に芸術作品としての出来ばえから言っても、今日、この傑作を度外視しては、記念公演が片輪なものになりはしまいか、こういうふうに小山内先生が言われまして、結局、「ゴースツ」に落ちついたわけなのであります。で、この演出にあたって土方さんは、初演の時とはだいぶプランを変更して、従来のオスワルトを主人公とする方針を捨てて、この作の重心をアルウィング夫人の悲劇相に置き、山本安英君扮するところのアルウィングをめぐるいくつかの世紀末的な人間の型を表出することにつとめられるそうであります。言うならば、十九世紀そのものの「幽霊」を描き出すことが
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