」の三曲を三旬に分ち、築地の誇りとする三演出家の担当のもとに舞台にのせる予定でありました。ところが途中から急に、帝劇公演の話がまとまりましたので、第三の演目を「ペエル・ギュント」と搗《つ》き変え、これを三演出家の共同演出のもとに、近衛氏の新交響楽団と岩村舞踊研究所の援助を得て、演劇と音楽と舞踊との綜合的なブリリアントな融合形式によって上演する運びに立ちいたりました。言うまでもなくイプセンは、文芸協会自由劇場以来、日本の新劇運動とはまことに密接な関係にありますが、おそらくは今後、彼の戯曲の上演を、これほど系統的に観賞批判し得る機会は、わが新劇界においてふたたび来ないであろうと信ぜられます。
 では、なぜわれわれが、イプセンの数多い作品の中から、今のべた演目を選んだかと申しますと、御承知のとおり、現在の築地は、各部から代表委員を挙げてその合議制によってレパートリーから経営方針までを決定しております。この委員会の席上でも、何を選ぶかについては諸説ふんぷんたるものがあったのですが、まず第一に支障なく選ばれたのは「ノラ」でありまして、これは、イプセンの作品中、もっともポピュラアなものであるという
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