居る様な熱心さで彼女の細かい動作を一つも見逃さない様に努めた。一|掴《つか》みの半襟地を窓明りに翳《かざ》しては元の位置へ置き、又他の一|掴《つかみ》を取上げて同じ事を繰返して居た。と、或刹那、彼は不思議な事を見付け出した。夫れは、幾枚かの半襟を取上げて窓に翳す時、重ねた両端の二枚を裏返して見る刹那。真中の一枚をすっと抜取って彼女の袖へ入れたのであった。彼が自分の眼を疑ったのは勿論《もちろん》である。併し其早業は只一度で無くて幾度も繰返されたのを確実に見た。彼は自分自身がそんな事をして居る様な驚きに出食わした。顔が火照《ほて》って耳ががァんと鳴って血の凝りで塞《ふさ》がれた様な気がした。
「ああァ」
思わず深い溜息《ためいき》が漏れた。而《そ》して今一度眼を瞠《みは》って彼女を瞶《みつ》めた。依然彼が後を跟けて来た彼《か》の美人以外の誰でもない。余りのなさけなさに涙が腹の中で雨の様に降った。それにも拘《かかわ》らず、此時急に彼女に対して強い真実の愛情が湧き起って来た。
美の前に何の罪があろう。愛の前に何の不徳があろう。只在るものは罪悪や不徳を超越した美と愛とだ。彼は只、誰もが彼女の
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