て又続けた。
「名誉ある高等官の妻に向って、能くも汚名を着せたもんです。此儘黙って済されるもんですか。私は出る所へ出て明瞭明しを立てて貰《もら》います」
半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《ハンケチ》を眼に当てて大びらに泣き出した。喰い縛る歯が鋭く軋《きし》った、往来の人は足を停めだした。彼は最早堪え切れなくなったと同時に、此女が万引をしたのでは無いと信じだした。若《も》しそうでなかったら、女が斯《か》く迄強い事を云う筈《はず》が無いからである。
「さあ一緒にお出でなさい。警察署まで一緒に行きましょう。私の潔白さを立派に知らせて見せましょう。いくら探偵が商売だって、高が私立の探偵で居乍ら、何の権利がありますか」紅色の滲《にじ》んだ眼を上げた。美しいが故に物凄《ものすご》い。
最早|退引《のっぴき》ならなくなった。如何《いか》に誠意を以て謝罪しても、此処まで出て了っては駄目なのは明かである。彼は自分の失敗を誤魔化す手段は只一つしかないと思った。
「愚図々々《ぐずぐず》云わなくても、どうせ否でも連れて行って遣る。これを見ろッ。俺は警視庁の刑事だぞッ」彼は名刺を一枚取り出して女の
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