に居た山田が、何か述立てようとすると、直後《じきうしろ》に見張って居た帝釈天の谷口が、後から肩口を握《つか》んで小突いた、すると壇上の椅子に居た次席の偉丈夫山本さんが突立上って、谷口を睨め底力のある声で叱り付けた。「君は誰か、何故発言を妨げるか、今参事官閣下の言われた事が判らんか止めなさい」
 と威厳ある一ト睨で、帝釈天は凹《へこ》んで面をふくらせたのは、溜飲が下った。山本さんは更に主任達の方を向いて、
「今の妨害者は当現場の監督者側の人とすると、此際|彼《あ》の様な挙動は、貴方達に却て不利益ですぞ」
 と決め付けた。主任と閻魔と閉口しつつ弁解がましく、述立てようとするのを耳にもかけず、
「今の発言者、遠慮なく述べなさい」
 之に勢《いきおい》づいた山田は感激に満ちて滔々《とうとう》と述べた、如何に無道徳で、如何に残酷で、如何に悲惨であるかを、実例を引き引き巨細《こさい》に訴えた。一同は山田が自分達を代表して弁じて呉れるとして肯定の色に満ち満ちた。続いて淫売殺しの木村も案の定立ち上って喋舌ったが、弁舌では山田に及ばないが、例証を挙げることの綿密なのには誰も彼も「よくマア」と感服した。無
前へ 次へ
全15ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
羽志 主水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング