集れの布令《ふれ》が廻って、時は愈《いよいよ》目睫《もくしょう》に迫った。山田は蒼白くなっては度々水で口を濡しながら「サア往こう」と昂然として言う。
三千人と一ト口に言うが、大したものだ、要所要所に上飯台の連中を配置し、寸分も足掻《あが》きを効かせまいと行届いた手配だ。然し此三千人の口には何様して手を宛てられるかと私は他人事ながら案じられて、背延びをして幹部の方を見たが、謹慎の象徴の様に固くなってるのが見えた丈だ。
山の主任が立上って、内務省から派遣された大河内《おおこうち》参事官を紹介し、何か不平でも希望でもあらば申立てる様仰せられたから、其旨申伝えると述べて着席する。大河内参事官は、痩ッぽちの体に似合わず、吃驚《びっくり》する程の大声で訓示を始めた。良く透る歯切れのいい弁で、内容を平易《やさし》く要領よく述立てる所は流石にと思わせた。当局に於いては虚心平気で実地の真情を審《つぶ》さに調査報告し、改良すべき点ありと認むれば、飽迄《あくまで》も之が改善を命ずるのである、腹蔵なく述るがよい、世評が嘘伝《うそ》であって欲しいと思うと述べた。
参事官が椅子につくかつかぬに、私から三人目
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