早く来て、俺ッちの地獄の責苦を何とかして呉れなけりゃ、余命《いのち》ア幾何《いくら》もありゃしねえや」
「マア、厳重《しっかり》吟味して圧制な……」
突然《だしぬけ》に近い所で、巨《でか》い声がした。
「何奴《どいつ》だア、何ヨグズグズ[#「グズグズ」に傍点]吐《こ》きゃアある、土性ッ骨ヒッ挫《くじ》かれねエ用心しろイ」
帝釈天《たいしゃくてん》と綽名《あだな》のある谷口という小頭《こがしら》だ。
「仕事の手を緩《ゆる》めて怠ける算段|計《ばか》り為《し》てけツかる、互《たげえ》に話ヨ為て、ズラかる[#「ズラかる」に傍点]相談でも為て見ろ、明日ア天日が拝め無えと思え」
実際ウカウカ[#「ウカウカ」に傍点]して居ると容赦なく撲ったり、蹴倒したりするから、ダンマリで又労役に精を疲らす、然し鳥渡《ちょっと》鵜の目鷹の目の小頭、世話役の目の緩むのを見て同様の会話が伝わる、外の組へも、又其外の組へも、悪事じゃ無いが千里を走って、此現場中へ只《たっ》た一日で噂は拡まる。
(二)
現場といっても、丸ノ内のビルジング建築場でも、大阪|淀屋橋《よどやばし》架換《かけかえ》
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