よくない外国人が「日本には時計はあるが時が無い[#「時計はあるが時が無い」に傍点]」と云った相だ。時の会の宣伝も中々骨が……
ウン君はラジオを聞いてた相だが、何を聞いて居たネ」
「何んでも越後獅子て云うんだが、彼れはネ、私の国では、蒲原《かんばら》獅子と云いますヨ」
「ウン蒲原獅子か、面白いネ。其の何所ン所だった、覚えて無いかネ」
「何処って云われても困るナ、浪花節なら大概判るんだが、モ一度聞けば判るんだが……」
「井澤さん楽器店から蓄音機と越後獅子のレコードを取り寄せて下さい。其の来る迄、次の室に控えさせて置いて、モ一度越前屋の番頭を調べたいのです」
越前屋の番頭の証明によれば勝次郎は長唄が始まると直ぐ来たらしいが判然しない。只、確に憶えて居るのは、勝次郎は清元をやる丈あって長唄も多少は耳がある様子で、
「小三治さんは旨《うま》くなったネ。今の己《おの》が姿を花と見てという所の見[#「見」に傍点]をズッと下げて、てエエを高く行く所なぞ箔屋町(小三郎)生き写しだ」と評したのを覚えて居ると申立てた。
間もなく蓄音機が持込まれ小三郎吹込みの越後獅子が始まった。一生懸命聞いて居た辰公、「うつや太鼓」から「己が姿」の件が夙《とく》に済んで「俺等《おら》が女房を賞めるじゃ無いが」
に来た時、ア、其処です其処ですと怒鳴った。
[#天から3字下げ]門並に延寿の話《かた》るやかましさ (主水)
[#地付き](一九二六年十二月)
底本:「「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10」光文社文庫、光文社
2002(平成14)年2月20日初版1刷発行
初出:「新青年」博文館
1926(大正15)年12月号
入力:川山隆
校正:noriko saito
2009年1月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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