化け
冬は
夜になると
うっすらした気持になる
お化けでも出そうな気がしてくる
踊《おどり》
冬になって
こんな静かな日はめったにない
桃子をつれて出たらば
櫟林《くぬぎばやし》のはずれで
子供はひとりでに踊りはじめた
両手をくくれた顎《あご》のあたりでまわしながら
毛糸の真紅《しんく》の頭巾《ずきん》をかぶって首をかしげ
しきりにひょこんひょこんやっている
ふくらんで着こんだ着物に染めてある
鳳凰《ほうおう》の赤い模様があかるい
きつく死をみつめた私《わたし》のこころは
桃子がおどるのを見てうれしかった
素朴《そぼく》な琴《こと》
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美くしさに耐えかね
琴はしずかに鳴りいだすだろう
響《ひびき》
秋はあかるくなりきった
この明るさの奥に
しずかな響があるようにおもわれる
霧
霧がみなぎっている
あさ日はあがったらしい
つつましく心はたかぶってくる
故郷《ふるさと》
心のくらい日に
ふるさとは祭のようにあかるんでおもわれる
こども
丘《おか》があって
はたけが あって
ほそい木が
ひょろひょろっと まばらにはえてる
まるいような
春の ひるすぎ
きたないこどもが
くりくりと
めだまをむいて こっちをみてる
豚《ぶた》
この 豚だって
かわいいよ
こんな 春だもの
いいけしきをすって
むちゅうで あるいてきたんだもの
犬
もじゃもじゃの 犬が
桃子の
うんこ[#「うんこ」に傍点]を くってしまった
柿《かき》の葉
柿の葉は うれしい
死んでもいいといってるふうな
みずからを無《な》みする
その ようすがいい
涙
めを つぶれば
あつい
なみだがでる
雲
あの 雲は くも
あのまつばやしも くも
あすこいらの
ひとびとも
雲であればいいなあ
お銭《あし》
さびしいから
お銭を いじくってる
水や草は いい方方《かたがた》である
はつ夏の
さむいひかげに田圃《たんぼ》がある
そのまわりに
ちさい ながれがある
草が 水のそばにはえてる
みいんな いいかたがたばかりだ
わたしみたいなものは
顔がなくなるようなきがした
天
天というのは
あたまのうえの
みえる あれだ
神さまが
おいでなさるなら あすこだ
ほかにはいない
秋のひかり
ひかりがこぼれてくる
秋のひかりは地におちてひろがる
このひかりのなかで遊ぼう
月
月にてらされると
ひとりでに遊びたくなってくる
そっと涙をながしたり
にこにこしたりしておどりたくなる
かなしみ
かなしみを乳房《ちぶさ》のようにまさぐり
かなしみをはなれたら死のうとしている
ふるさとの川
ふるさとの川よ
ふるさとの川よ
よい音《おと》をたててながれているだろう
ふるさとの山
ふるさとの山をむねにうつし
ゆうぐれをたのしむ
顔
どこかに
本当に気にいった顔はないのか
その顔をすたすたっと通りぬければ
じつにいい世界があるような気がする
夕焼
いま日が落ちて
赤い雲がちらばっている
桃子と往還《おうかん》のところでながいこと見ていた
冬の夜
皆《みんな》が遊ぶような気持でつきあえたら
そいつが一番たのしかろうとおもえたのが気にいって
火鉢の灰を均《な》らしてみた
麗日《れいじつ》
桃子
また外へ出て
赤い茨《いばら》の実《み》をとって来ようか
冬
ながいこと考えこんで
きれいに諦《あきら》めてしまって外へ出たら
夕方ちかい樺色《かばいろ》の空が
つめたくはりつめた
雲の間《あいだ》に見えてほんとにうれしかった
冬の野
死ぬことばかり考えているせいだろうか
枯れた茅《かや》のかげに
赤いようなものを見たとおもった
病床無題
人を殺すような詩はないか
無題
息吹き返させる詩はないか
無題
ナーニ 死ぬものかと
児《こ》の髪の毛をなぜてやった
無題
赤いシドメのそばへ
にょろにょろと
青大将を考えてみな
梅
眼《め》がさめたように
梅にも梅自身の気持がわかって来て
そう思っているうちに花が咲いたのだろう
そして
寒い朝|霜《しも》ができるように
梅|自《みず》からの気持がそのまま香《におい》にもなるのだろう
雨
雨は土をうるおしてゆく
雨というもののそばにしゃがんで
雨のすることをみていたい
木枯《こがらし》
風はひゅうひゅう吹いて来て
どこかで静まってしまう
無題
雪がふっているとき
木の根元をみたら
面白《おもしろ》い小人《こびと》がふざけているような気がする
無題
神様 あなたに会いたくなった
無題
夢の中の自分の顔と言うものを始めて見た
発熱がいく日《にち》もつづいた夜
私《わたし》はキリストを念じてねむった
一つの顔
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