草をむしっているだけになってくる

童《こども》

ちいさい童が
むこうをむいてとんでゆく
たもとを両手でひろげて かけてゆく
みていたらば
わくわくと たまらなくなってきた

雨の日

雨が すきか
わたしはすきだ
うたを うたおう

蟻《あり》

蟻のごとく
ふわふわふわ とゆくべきか
おおいなる蟻はかるくゆく

大山とんぼ

大山とんぼを 知ってるか
くろくて 巨《おお》きくて すごいようだ
きょう
昼 ひなか
くやしいことをきいたので
赤んぼを抱《だ》いてでたらば
大山とんぼが 路《みち》にうかんでた
みし みし とあっちへゆくので
わたしもぐんぐんくっついていった



虫が鳴いてる
いま ないておかなければ
もう駄目《だめ》だというふうに鳴いてる
しぜんと
涙がさそわれる

あさがお

あさがおを 見
死をおもい
はかなきことをおもい

萩《はぎ》

萩がすきか
わたしはすきだ
持って 遊ぼうか

西瓜《すいか》を喰《く》おう

西瓜をくおう
西瓜のことをかんがえると
そこだけ明るく 光ったようにおもわれる
はやく 喰おう

こうじん虫

ふと
とって 投げた
こうじんむしをみていたらば
そのせなかは青く
はかないきもちになってしまった



桃子
お父《とう》ちゃんはね
早く快《よ》くなってお前と遊びたいよ



雀《すずめ》をみていると
私《わたし》は雀になりたくなった

陽遊《かげろう》

さすがにもう春だ
気持も
とりとめの無いくらいゆるんできた
でも彼処《あそこ》にふるえながらたちのぼる
陽遊のような我慢しきれぬおもいもある



ほんとによく晴れた朝だ
桃子は窓をあけて首をだし
桃ちゃん いい子 いい子うよ
桃ちゃん いい子 いい子うよって歌っている



梅を見にきたらば
まだ少ししか咲いていず
こまかい枝がうすうす光っていた

冬の夜

おおひどい風
もう子供|等《ら》はねている
私《わたし》は吸入器を組み立ててくれる妻のほうをみながら
ほんとに早く快《よ》くなりたいと思った

病気

からだが悪いので
自分のまわりが
ぐるっと薄くなったようでたよりなく
桃子をそばへ呼んで話しをしていた

太陽

日をまともに見ているだけで
うれしいと思っているときがある



ながい間からだが悪るく
うつむいて歩いてきたら
夕陽《ゆうひ》につつまれたひとつの小石がころがっていた



原へねころがり
なんにもない空を見ていた



朝|眼《め》を醒《さ》まして
自分のからだの弱いこと
妻のこと子供達の行末《ゆくすえ》のことをかんがえ
ぼろぼろ涙が出てとまらなかった



黒い犬が
のっそり縁側《えんがわ》のとこへ来て私《わたし》を見ている



綺麗な桜の花をみていると
そのひとすじの気持ちにうたれる

神の道

自分が
この着物さえも脱《ぬ》いで
乞食《こじき》のようになって
神の道にしたがわなくてもよいのか
かんがえの末は必ずここへくる



悲しく投げやりな気持でいると
ものに驚かない
冬をうつくしいとだけおもっている

冬日《ふゆび》

冬の日はうすいけれど
明るく
涙も出なくなってしまった私《わたし》をいたわってくれる



日がひかりはじめたとき
森のなかをみていたらば
森の中に祭のように人をすいよせるものをかんじた

夕焼

あの夕焼のしたに
妻や桃子たちも待っているだろうと
明るんだ道をたのしく帰ってきた

霜《しも》

地はうつくしい気持をはりきって耐《こ》らえていた
その気持を草にも花にも吐《は》けなかった
とうとう肉をみせるようにはげしい霜をだした



葉は赤くなり
うつくしさに耐《た》えず落ちてしまった
地はつめたくなり
霜をだして死ぬまいとしている

日をゆびさしたい

うすら陽《び》の空をみれば
日のところがあかるんでいる
その日をゆびさしたくなる
心はむなしく日をゆびさしたくなる



窓をあけて雨をみていると
なんにも要《い》らないから
こうしておだやかなきもちでいたいとおもう

くろずんだ木

くろずんだ木をみあげると
むこうではわたしをみおろしている
おまえはまた懐手《ふところで》しているのかといってみおろしている

障子《しょうじ》

あかるい秋がやってきた
しずかな障子のそばへすりよって
おとなしい子供のように
じっとあたりのけはいをたのしんでいたい

桐《きり》の木

桐の木がすきか
わたしはすきだ
桐の木んとこへいこうか

ひかる人

私《わたし》をぬぐうてしまい
そこのとこへひかるような人をたたせたい



はっきりと
もう秋だなとおもうころは
色色なものが好きになってくる
あかるい日なぞ
大きな木のそばへ行っていたいきがする


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