親父はいないんでな、今は靖国に祭られてある。日露戦争でぶったおれた、陸軍中佐だったんだからな。それで、俺の狙っているのは、南洋方面の支店長どころサ。メリケンは向かん。だから、今ギッブスっていう奴と一談判してるとこなんだよ。アール・ティ・ギッブスと云ってね、英国人で、貿易商をやっている男で、ウオール街に事務所を持っている。この男なら、ちょっと話せる奴だ。鎌倉に別荘を持っていたりして、日本詰のときは、まあ相当にやっていた奴さ。君のはいって来る場所は、そこなんだ。つまり、足下に一役買って貰いたいんだ。ギッブスに、シャムの支店長か何かの口がありそうなんだ。一つ是非そこのところを交渉して貰いたいのサ。』
『はハア、するとなんだね、僕という男を、君がやとおうとすることを、君は僕と相談なしに定めているということなんだね?』
『ふむ、まあ、そういうことになるかな。』
『だとすると、その話はおことわりだ。』
『辰野とも話したんだが、君は恐らく最適任者だ、英語が達者だからね。』
『辰野は何と云ったか知らないが――第一、君は、失敬だよ。いいかね、今まで、殆ど面識もない間柄でさ、たまたまステーションへ辰野に代
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