った。それは、かたく握りしめて拳になっていることもあったがたいがいは大きく開いてあった。たとえば、シガレットを吸うときの如きは、五本の指を開いて、そのあいだに煙草を挟むという調子だったから、シガレットではなくて、自分の掌を吸っているように見えた。
『ここは、君の宿か?』
『ふむ、鶴は千年亀は万年の僕の宿さ。はははは――君は、何がいい、日本酒か、それともウイスケか?』
そうやって、例の掌を大きくふりながら、酒の燗瓶を三四本ならべたあいだから、異容な顔を突出して、誰憚らず大声で身の上話をするところは、スティヴンスンの『宝島』に出て来る海賊そっくりだった。
今まで、どんな男であるかも知らない当人が、膝つき合わして、こう親しげに語るというのもふしぎだし、その話の内容というのも、ちょっと私などの水平線をかけはなれているのも妙だった。無人島で宝のありかをでも聞いている気持だった。ニュー・ヨークとは、ずいぶんへんなところだ。
『俺はな、こう見えても、こんなメリケンなどには向かない男なんだよ。叔父の一人は満鉄にいるし、もう一人の叔父は東京の帝国物産の社長をやってる。それに、親父が、親父の話となると
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