いて、三角形になっているところが、ちょうど巨大な蟷螂《かまきり》のようだった。北海道の産というが、ちょっと日本ばなれのした日本人である。
ごみごみした通りや、広い誰もいないような街をぬけて、頭上にたたきこわし[#「たたきこわし」に傍点]をやっているような高架線の通りへ出て、すこし歩くと、またがらんとした大通りへまぎれこむ。そうやっていく通りも街を引きまわされた上、栗の果横丁そっくりの借間のある二階の一室へ案内された。がらんとした部屋に、一人の日本人が小卓にむかって食事をしている。
『三沢君、これシカゴから今ついたばっかりの僕の友人、前田河だよ。』
何年来の旧友みたいに、木元は紹介する。三沢と呼ばれる男は、糠パンにバターを塗っていた手をとめて、こちらへむきなおった。
『How do you do? ミサワです。』
扁平ったい声であった。冬もまぢかなのに、テニス用の運動靴をはいている。
木元は木元で、別行動をとっていた。彼はズボンのポケットから、やにわにウイスキーの罎をぬき出すと大きい掌で飲み口をぐいと拭くと、私の方にさしむけた。
『ともかく、大兄のニュー・ヨーク入りを祝おう。』
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