B
或る美しい夕べのこと、――灯火輝くカフヱーの
ビールがなんだ、レモナードがなんだ?――
人はゆきます遊歩場、緑色濃き菩提樹《(ぼだいじゆ)》の下。

菩提樹のなんと薫ること、六月の佳い宵々に。
空気は大変甘くつて、瞼閉じたくなるくらゐ。
程遠き街の響を運ぶ風
葡萄の薫り、ビールの薫り。

     ※[#ローマ数字2、1−13−22]

枝の彼方の暗い空
小さな雲が浮かんでる、
甘い顫《(ふる)》へに溶けもする、白い小さな
悪い星|奴《め》に螫《(さ)》されてる。

六月の宵!……十七才!……人はほろ酔ひ陶然となる。
血はさながらにシャンペンで、それは頭に上ります。
人はさまよひ徘徊《(はいくわい)》し、羽搏く接唇《くちづけ》感じます
小さな小さな生き物の、羽搏く接唇《くちづけ》……

     ※[#ローマ数字3、1−13−23]

のぼせた心はありとある、物語にまで拡散し、
折しも蒼い街灯の、明りの下を過ぎゆくは
可愛いい可愛いい女の子
彼女の恐《こは》い父親の、今日はゐないをいいことに。

扨《(さて)》、君を、純心なりと見てとるや、
小さな靴をちよこちよこと、
彼女は忽ちや
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