zばかり、
市場とばかりぢぢむさい匂ひを放《あ》げる着物の下に
泥に汚れて黄や黒の、痩せた指をば押し匿し、
言葉を交すその時は、白痴のやうにやさしい奴等。
この情けない有様を、偶々《(たまたま)》見付けた母親は
慄へ上つて怒気含む、すると此の子のやさしさは
その母親の驚愕に、とまれかくまれ身を投げる。
母親だつて嘘つきな、碧い眼《め》をしてゐるではないか!

七才にして、彼は砂漠の生活の物語《ロマン》を書いた。
大沙漠、其処で自由は伸び上り、
森も陽も大草原も、岸も其処では燿《かがや》いた!
彼は絵本に助けを借りた、彼は絵本を一心に見た、
其処にはスペイン人、イタリヤ人が、笑つてゐるのが見られるのだつた。
更紗《(サラサ)》模様の着物著た、お転婆の茶目の娘が来るならば、
――その娘は八才で、隣りの職人の子なのだが、
此の野放しの娘|奴《め》が、その背に編髪《おさげ》を打ゆすり、
片隅で跳ね返り、彼にとびかゝり、
彼を下敷にするといふと、彼は股《もゝ》に噛み付いた、
その娘、ズロース穿いてたことはなく、
扨、拳固でやられ、踵《かかと》で蹴られた彼は今、
娘の肌の感触を、自分の部屋まで持ち
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