トゐるのも知らないで。
ひねもす彼は、服従でうんざりしてゐた
聡明な彼、だがあのいやな顔面痙※[#「てへん+畜」、第3水準1−84−85]患つてをり、
その目鼻立ちの何処となく、ひどい偽嬌を見せてゐた。
壁紙が、黴びつた廊下の暗がりを
通る時には、股のつけ根に拳《こぶし》をあてがひ
舌をば出した、眼《めんめ》をつぶつて点々《ぼちぼち》も視た。
夕闇に向つて戸口は開いてゐた、ラムプの明りに
見れば彼、敷居の上に喘いでゐる、
屋根から落ちる天窗《(てんまど)》の明りのその下で。
夏には彼、へとへとになり、ぼんやりし、
厠《かはや》の涼気のその中に、御執心にも蟄居《(ちつきよ)》した。
彼は其処にて思念した、落付いて、鼻をスースーいはせつゝ。
様々な昼間の匂ひに洗はれて、小園が、
家の背後《うしろ》で、冬の陽光《ひかり》を浴びる時、彼は
壁の根元に打倒れ、泥灰石に塗《まみ》れつゝ
魚の切身にそつくりな、眼《め》を細くして、
汚れた壁に匍《(は)》ひ付いた、葡萄葉《ぶだうば》の、さやさやさやぐを聴いてゐた。
いたはしや! 彼の仲間ときた日には、
帽子もかぶらず色褪せた眼《め》をした哀れな
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