A女と伴れだつやうに幸福に。
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 フォーヌの頭


緑金に光る葉繁みの中に、
接唇《くちづけ》が眠る大きい花咲く
けぶるがやうな葉繁みの中に
活々として、佳き刺繍《ぬひとり》をだいなしにして

ふらふらフォーヌが二つの目を出し
その皓《(しろ)》い歯で真紅《まつか》な花を咬んでゐる。
古酒と血に染み、朱《あけ》に浸され、
その唇は笑ひに開く、枝々の下。

と、逃げ隠れた――まるで栗鼠、――
彼の笑ひはまだ葉に揺らぎ
鷽《(うそ)》のゐて、沈思の森の金の接唇《くちづけ》
掻きさやがすを、われは見る。
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 びつくりした奴等


雪の中、濃霧の中の黒ン坊か
炎のみゆる気孔の前に、
   奴等|車座《くるまざ》

跪《(ひざま)》づき、五人の小童《こわつぱ》――あなあはれ!――
ジツと見てゐる、麺麭《(パン)》屋が焼くのを
   ふつくらとした金褐の麺麭、

奴等見てゐるその白い頑丈な腕が
粘粉《ねりこ》でつちて窯《(かま)》に入れるを
   燃ゆる窯の穴の中。

奴等聴くのだいい麺麭の焼ける音。
ニタニタ顔の麺麭屋殿には
   古い節《ふし》なぞ唸つてる。


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