qの、厚紙《ボール》の兜は鉢合わせ。

ウワーツ、北風ピユーピユー、骸骨社会の大舞踏会の真ツ只中に!
大きい鉄のオルガンさながら、絞首台氏も吼《(ほ)》えまする!
狼たちも吠えてゆきます、彼方《かなた》紫色《むらさきいろ》の森。
地平の果では御空が真ツ赤、地獄の色の真ツ赤です……

さても忘れてしまひたいぞえ、これら陰気な威張屋連中、
壊れかゝつたごつごつ指にて、血の気も失せたる椎骨の上
恋の念珠を爪繰る奴等、陰険《いや》な奴等は忘れたいぞえ!
味もへちまも持つてるもんかい、くたばりきつたる奴等でこそあれ!

さもあらばあれ、死人の踊の、その中央《たゞなか》で跳ねてゐる
狂つた大きい一つの骸骨、真ツ赤な空の背景の前。
息《いき》も激しく苛立ちのぼせ、後脚《あとあし》跳ねかし牡馬の如く、
硬い紐をば頸には感じ、

十《じふ》の指《および》は腰骨の上、ピクリピクリと痙攣いたし、
冷笑《ひやかしわらひ》によく似た音立て、大腿骨《こしのおほぼね》ギシギシ軋らす、
さていま一度、ガタリと跳ねる、骨の歌声、踊りの際中《さなか》、
も一度跳ねる、掛小舎で、道化が引ツ込む時するやうに。

[#ここから3字下げ]
愛嬌のある不具者《かたはもの》=絞首台氏のそのほとり、
踊るわ、踊るわ、昔の刺客等、
悪魔の家来の痩せたる刺客等、
サラヂン幕下の骸骨たちが。
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き]〔一八七〇、六月〕
[#改ページ]

 タルチュッフの懲罰


わくわくしながら、彼の心は、恋慕に燃えて
僧服の下で、幸福おぼえ、手袋はめて、
彼は出掛けた、或日のことに、いとやさしげな
黄色い顔して、歯欠けの口から、信心垂らし

彼は出掛けた、或日のことに――※[#始め二重括弧、1−2−54]|共に祈らん《オレムス》※[#終わり二重括弧、1−2−55]――
と或る意地悪、祝福された、彼の耳をば手荒に掴み
極悪の、文句を彼に、叩き付けた、僧服を
じめじめの彼の肌から引ツ剥ぎながら。

いい気味だ!……僧服の、釦《(ボタン)》は既に外《はづ》されてゐた、
多くの罪過を赦してくれた、その長々しい念珠をば
心の裡にて爪繰りながら、聖タルチュッフは真《ま》ツ蒼《さを》になつた。

ところで彼は告解してゐた、お祈りしてゐた、喘《(あへ)》ぎながらも。
件《(くだん)》の男は嬉々として、獲物を拉つてゆきました。
――フツフツフツ! タルチュッフ様は丸裸か。
[#地付き]〔一八七〇、七月〕
[#改ページ]

 海の泡から生れたヴィナス


ブリキ製の緑の棺からのやうに、褐色の髪に
ベトベトにポマード附けた女の頭が、
古ぼけた浴槽の中からあらはれる、どんよりと間の抜けた
その顔へはまづい化粧がほどこされてゐる。

脂《あぶら》ぎつた薄汚い頸《くび》、幅広の肩胛骨《かひがらぼね》は
突き出てゐるし、短い脊中はでこぼこだ。
皮下の脂肪は、平らな葉のやう、
腰の丸みは、飛び出しさうだ。

脊柱《せすぢ》は少々赤らんでゐる、総じて異様で
ぞつとする。わけても気になる
奇態な肉瘤《こぶ》。

腰には二つの、語が彫つてある、Clara Venus と。
――胴全体が大きいお尻を、動かし、緊張《ひきし》め、
肛門の、潰瘍は、見苦しくも美しい。
[#改ページ]

 ニイナを抑制するものは


      彼曰く――

そなたが胸をばわが胸の上《へ》に、
   そぢやないか、俺等《おいら》は行かうぜ、
鼻ン腔《あな》アふくらましてヨ、
   空ははればれ

朝のお日様アおめへをうるほす
   酒でねえかヨ……
寒げな森が、血を出してらアな
   恋しさ余つて、

枝から緑の雫を垂れてヨ、
   若芽出してら、
それをみてれアおめへも俺も、
   肉が顫はア。

苜蓿《(うまごやし)》ン中おめへはブツ込む
   長《なげ》エ肩掛、
大きな黒瞳《くろめ》のまはりが青味の
   聖なる別嬪、

田舎の、恋する女ぢやおめへは、
   何処へでも
まるでシャンペンが泡吹くやうに
   おめへは笑を撒き散らす、

俺に笑へよ、酔つて暴れて
   おめへを抱かうぜ
こオんな具合《ぐえイ》に、――立派な髪毛ぢや
   嚥んでやらうゾ

苺みてエなおめへの味をヨ、
   肉の花ぢやよ
泥棒みてエにおめへを掠める
   風に笑へだ

御苦労様にも、おめへを厭《いと》はす
   野薔薇に笑へだ、
殊には笑へだ、狂つた女子《あまつこ》、
   こちのひとへだ!……

十七か! おめへは幸福《しやはせ》。
   おゝ! 広《ひれ》エ草ツ原、
素ツ晴らしい田舎!
   ――話しなよ、もそつと寄つてサ……

そなたが胸をばわが胸の上《へ》にだ、
   話をしいしい
ゆつくりゆかうぜ、大きな森の方サ
   雨水《あまみづ
前へ 次へ
全22ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ランボー ジャン・ニコラ・アルチュール の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング